Colors

はじまりのdeepskyblue

「やっぱり今日、覗きに来て良かったかも・・・。」

かなではそうごちると、大きく伸びをした。
彼女が今居るのは、彼女が明日から通う事になっている星奏学院。
明日から通う事になる場所を、見ておきたかったかなで。
校舎には入らなかったものの、色んな場所なら聴こえて来る楽器の音色を耳にして
かなでは明日からここで頑張って行こう、と改めて思う。
そう言えば、律くんはどうしているのだろう、かなではとふと思った。
今回、自分と共に星奏へ転校する事になった響也は、兄の律について
「どうしているかなんてわかんねぇ」と言っていたので、律が星奏でどのように過ごして
いるかを
かなでも知らない。
まぁ、明日からここへ通うのだから、律の事も追々判るだろう。
明日に備えて、そろそろ帰ろう。
そう思っていたかなでの耳に入って来た微かな音色。

(これ、ヴィオラの音色だ…)

弾いている人物はかなりの技量の持ち主のようだ。
かなではその音色に誘われるように、歩き出した。

段々と鮮明になって行く音色に、かなでは早足になっていた。

ヴィオラが奏でるのはディヴェルティメント K.136の第1楽章。
快活なテンポで奏でられるそれは、まるで澄みきった空のような色をしている
とかなでは思った。
どうやら演奏者は外でヴィオラを弾いているらしい。
かなでがとある場所に足を踏み入れた瞬間、その音色は今まで以上に鮮明になる。

(う、わぁ

そこにはかなでの探していた演奏者が、軽やかな仕草でヴィオラを弾いている。
ライトブラウンのシャツに、ネイビーのネクタイを締めた青年は、恐らく普通科の
生徒なのだろう。
演奏もさることながら、青年はかなりのルックスの持ち主でもあった。
少し癖のあるシナモンブラウンの髪、整った鼻梁、均整の取れたスタイルはどれを
取っても文句なしの格好良さ。
律や響也とはまた違う演奏スタイルを持った彼に、かなでは惹き付けられる。
本当に澄みきった空のような音色だと、かなでは瞳を閉じて音に集中する。

ふと、ヴィオラの音が止んだ。

かなでが瞼を開けると、青年は誰かに呼ばれたらしくヴィオラをケースに仕舞い
そこから立ち去って行く所だった。
もう少しだけ彼の演奏を聴いて居たかったが仕方ない。

きっとまた、彼の演奏を聴く事が出来る筈。

かなでは微笑みを浮かべると明日に備える為、その場を立ち去ったのだった。