「今日は、ひなちゃんからキスして貰いたいな。」
と突然大地からそんな事を言われて、かなでは舐めていたキャンディを
喉に詰まらせそうになった。
赤くなった顔で大地を見遣れば、彼はにっこりと微笑みながら、かなでを見つめている。
大地と恋人同士になって1ヶ月余り。
数える程ではあるが、彼とキスをした事がある。
だが、それはいつも大地から仕掛けられるものであって、かなでから大地に
と云う事は一度もなかった。
「無理ですっ・・・!」
「何で?」
「恥ずかしい・・・から・・・。」
大地とキスをするのが嫌、と云う訳ではない、自分からそれをするのが恥ずかしいのだ。
「じゃあ、ひなちゃんが恥ずかしくないように、俺は目を瞑ってるから、ね?」
大地は開いていた瞳を閉じた。
目を瞑られても、恥ずかしいものは恥ずかしい。
かなでは瞳を閉じたままの大地をじっと見つめる。
(大地先輩・・・、睫毛長いんだ・・・)
彼からキスを仕掛けられる時は無意識に目を瞑っているかなで。
大地の瞳を閉じた顔を見るのは初めてかもしれない。
(目を瞑っている大地先輩って、可愛い、かも・・・)
瞳を閉じている彼の表情は、いつもより幼さを感じる。
かなではそんな彼の顔を見て、くすぐったい気持ちになった。
「ひなちゃん、早くしてくれるかな・・・?」
中々行動しないかなでに痺れを切らした大地が、彼女を促す。
意を決したかなでは、大地の頬にそっと手を添えた。
ややあって、大地の右の頬に柔らかなものが触れる。
かなでの唇だ。
「口にしてくれるんじゃなかったの・・・?」
かなでが離れて行く気配を感じ、大地は目を開けた。
「口は無理です・・・!こんな場所で・・・!」
今、2人が居るのは外なのだ、こんな場所で堂々とキスが出来る筈がない。
「残念。」
くすくすと笑う大地。
この後、大地が呟いた言葉に、かなでは耳まで赤くなってしまう事となる。
「じゃあ、さ、次は2人きりの場所で、ひなちゃんからキスして貰うよ。」