とんとん、とドアを叩く音が聞こえて響也は読んでいた雑誌を閉じる。
机に置かれているデジタル時計を見れば、23時55分25秒。
こんな時間に誰が訪ねてきたのだろうと思いながら、ドアを開ける響也。
「かなで…、どうしたんだ?こんな遅くに。」
そこには枕を持ったかなでが立っていた。
「あのね…、眠れないの。だから響也の部屋で眠っても良い?」
かなでの言葉に瞠目する響也。
「駄目だ。」
かなでは何も判っていない、と響也は溜め息きの後、そう返す。
「何で?昔はよく一緒に眠ってたじゃない。」
響也は目眩を覚える。昔と今は全く違うのだ。好きな子と一緒に眠れば
自分の理性が持たないだろう。
「響也…、どうしても駄目…?」
しょんぼりとした表情のかなで、その眦には涙が滲んでいて。
「…ったく!…判ったよ!そこに居たら寒いだろう?早く入れよ。」
かなでを慰める様に彼女の頭を撫でる響也。
「ありがとう!」
ふわり、と笑んだかなでに、響也は赤くなった頬を掻く。
昔から、かなでの笑顔には弱いのだ、これも惚れた弱味なんだろうかと心の中でごちりながら
かなでを部屋に招き入れた。
「何か怖い夢でもみたのか?」
部屋に入ったかなでに問えば、かなでは首を振ってそれを否定する。
かなでは幼い頃、「恐い夢を見た」と言って響也のベッドに潜り込む事が何度かあったのだ。
「そう言う訳じゃないんだけれど…。何だか眠れなくて。」
星奏学院に転校してから、自分とかなでを取り巻く環境は随分と変化した。
目紛るしく過ぎて行く毎日に、きっと疲れているのだろうと、響也はかなでの頭を撫でてやる。
「色々あって疲れてるんだな…。今日はゆっくり休めよ。ほら…」
今日はベッドを指差し、かなでに眠る様促す。
「響也は?」
「俺はここで眠るから。」
自分用に毛布を取り出しそれを被って床に敷かれているラグマットに腰掛ける響也。
「なら、私もそこで眠る。」
「かなで、ちょ…!入り込むなよ…!」
響也が広げた毛布の中へ、強引に入り込むかなで。
「いや!もう入っちゃったから、追い出したりしないでね。」
にっこりと笑うかなでに、響也は仕方ないなと諦めてかなでの為にスペースを作る。
かなでがちらりと時計を見遣れば、23時59分55秒と標示されていた。
後、5秒…4…3…2…1…
「響也、お誕生日おめでとう…!」
こっそりと響也の耳元で囁くと、彼が目を見開いているのが見えて作戦は成功したみたいだ
とかなでは微笑みを浮かべた。
「日付、変わったのか…。」
「うん、12時丁度。おめでとう。」
「さんきゅ、お前に祝って貰うのってやっぱり嬉しいもんだな。」
「響也、これ…。」
かなでは枕の下に隠していた物を、そっと響也へ差し出す。
「これって、プレゼントなのか?」
「うん。開けてみて。」
かなでの手にはシルバーの小さな箱がある。
響也はそれを受けとると、箱に掛かっていたリボンをほどいた。
「ストラップ…?」
「うん、響也の携帯ってストラップが付いていなかったでしょ?だから。」
「かなで、本当にありがとうな。」
嬉しそうな響也の顔を見て安堵するかなで。
「どういたしまして。来月の誕生日も再来年の誕生日も、ずっと一緒にお祝いしようね!」
その言葉に面を喰らう響也。まるでプロポーズみたいじゃないか…。
かなでも自分と同じ気持ちなのだと知って、響也の胸に暖かなものが広がる。
「ああ、ずっと一緒に祝おうな。勿論お前の誕生日も。」
とかなでに言えば、彼女はとても綺麗な笑みを浮かべて頷く。
「響也、あのね…。」
かなでは再び響也の耳元へ囁いた。
Title by. precious days