「・・・・なちゃん、・・・かい・・・?」
自分を呼ぶ誰かの声が聞こえる・・・。かなではその声に答える為に
中々言う事を聞いてくれない、重い瞼を開こうとする。
「だいち・・・せんぱ・・・い・・・?」
何とか瞼を開いたかなでが見たものは、自分の顔を不安げな表情で見つめている
大地の顔だった。
「良かった・・・。大丈夫みたいだね。」
かなでが目覚めてくれた・・・。安堵した大地は、強張っていた体から力を抜く。
「ん・・・。脈は正常だし、もう大丈夫だね。」
かなでの手首を取り脈を測った大地は、彼女の小さな手をぎゅっと握った。
「ここ・・・私の、部屋・・・?」
何故、自分は大地と一緒に菩提樹寮の自室に居るのか・・・、確か大地と森の広場で練習を
していた筈なのに。
「練習中に倒れちゃったんだよ。俺が一緒に居たのにも関わらず、ひなちゃんの
体調が芳しくない事に気付いてあげられなかった。本当にごめん・・・。」
大地はそう言ってかなでに頭を下げた。
「そんな・・・、大地先輩のせいじゃないです・・・!私が自分の体調の事を
把握出来ていなくて倒れたから。」
かなでは頭を下げる大地を見て、慌てて首を振る。
朝から自分の体調が芳しくない事は、かなでも薄々気が付いていた。
だが、折角大地と2人で練習をする約束をしていたのだから、と無理をして出掛けてしまった。
その事が大地に迷惑を掛けてしまう結果となったのだ。
自分のせいで、自分の大切な人に心配と迷惑を掛けてしまった・・・
かなではしゅんと項垂れてしまう。
「ひなちゃん、そんな顔をしないで・・・。」
かなでの髪を優しく梳きながら彼女の額にキスを一つ落とす大地。
「でも・・・んっ・・・!」
『私が無理をしたから先輩に迷惑をかけた』と続けようとしたかなでだったが
その言葉は大地の唇によって遮られてしまった。
ちゅっとリップ音を立てて離れて行く大地の唇。
「大地、せんぱ・・・・」
「もう謝らなくて良いよ。ひなちゃんがまだ謝るのなら、そのいけない口を塞いで
話せないようにするから。」
「っ・・・!」
かなでは『もう言いません・・・』と蚊の鳴く様な声で大地に告げた。
「今度からは無理をしない事。もし辛かったら俺に言って。その時はひなちゃんの
隣にずっと居るから。」
良い子良い子、と大地がかなでの頭を撫でてやれば、かなではうっとりとした
表情で瞳を閉じる。
「大地先輩の手って、魔法の手ですね。」
かなでは瞳を閉じたまま、自分の頭を撫で続けている大地に言った。
「魔法の手?」
「はい、大地先輩にこうやって撫でて貰うと疲れとか、嫌な事とか全部どこかへ
飛んで行っちゃうから。」
全く、何と可愛らしい事を、彼女は言うのだろう・・・。
にっこりと笑んだ大地は、かなでの額にもう一度口付ける。
「ひなちゃんは本当に可愛い事を言ってくれるね・・・。さ、もう少し休んだ方が
良い。ひなちゃんが眠るまで俺もここに居るから。」
かなではこっくりと頷くと、ベッドへ横になった。
「大地先輩。」
かなでは大地のシャツをくいっと引っ張りながら、小さな声で呟く。
「何だい?」
「私の目が覚めるまで、ここに居て下さい・・・。」
倒れたと言う事もあって、いつもより気持ちが弱くなっているのだろう・・・
病気の時は誰しも側に居る人間に甘えたくなるものだ。
「ひなちゃんの目が覚めても側にいるよ、だから、安心して眠って。」
「ありがとうございます。」
かなでははにかんだ笑みを浮かべると、瞳を閉じた。
ややあって聞こえて来るかなでの安らかな寝息。
「本当に可愛い事を言ってくれるな・・・。もう、君の事を手放してあげられないよ。
覚悟しておいて。」
大地は眠るかなでの耳元でそう囁くと、その柔らかな耳朶にそっと口付けた。
結局かなでの寝顔を見ていた大地もそのまま眠ってしまい、その2ショットをニアに
スクープされてかなでが真っ赤な顔をしてニアに抗議したのは、また別の話・・・。