「あ、響也だ!お帰り!」 菩提樹寮近辺にあるコンビニへ出掛けていた響也に声を掛けたのは、幼馴染みの小日向かなで。 「ちょ…!かなでお前…!」 かなでの姿を見た響也は、コンビニの袋を落としてしまう。 木陰でヴァイオリンの練習をしていたらしい彼女。 それ事態に驚きはしないが、問題は今のかなでの格好にある。 ライトピンクのホルターネックのキャミソールに黒のショートパンツ、丈の短い黒いパーカーを 羽織ったかなで。 すらりとした脚を惜しみ無く晒し、胸元が深く開いている服を着た彼女はいつもより露出が高い。 「どうしたの?折角買って来た物を落としちゃうなんて。」 響也が何故絶句しているかなど、知る余地もないかなでは、ほわほわとした笑みを浮かべて袋を拾う。 「…っ!」 響也は口許を押さえて、かなでから視線を反らした。 かなでがしゃがんだ瞬間、彼女の胸の谷間がちらりと見えてしまったから。 僅かではあるが膨らみを持ったそこは、かなでが女性であると云う証で。 改めて、かなでと自分の性の違いについて実感した響也は、耳まで真っ赤になる。 「響也?」 微動だにせず、何故か耳まで紅潮させている響也が心配で、かなでは彼の顔を覗き込む。 「…っ!ちょっとここで待ってろ!」 突然そう叫んだ響也は、寮へと走り去ってしまった。 「響也ってば、どうしちゃったんだろう…。」 かなでは自分の手に握られたままのビニール袋を見ながら呟く。 いきなり黙りこくってしまったかと思うと、突然寮へと走り去ってしまった響也。 自分は何か不味い事をしてしまったのだろうか…とかなでは思案するが、これと言って 思い当たる節がない。 「かなで!」 玄関から自分を呼ぶ響也の声が聞こえて、かなでが振り向くとこちらへ走って来る響也の 手にはパーカーのような物が握られている。 「お前、これを羽織っていろよ。」 ふわり、と手にしていた自分のパーカーをかなでに羽織らせる響也。 「何で?パーカーならもう着てるのに。」 不思議そうな顔をしているかなでを見て、響也から深い溜め息が漏れる。 菩提樹寮に居る女子生徒はかなでとニアの2人のみで、後は数名の男子生徒と今は大会中と 云う事もあり、至誠館と神南のメンバーも居る。 かなでに好意を抱いている新や土岐等に、こんな無防備な姿をした彼女を見せる訳にいかないのだ。 自分以外の男に、かなでのこんな姿を見せたくない。 「良いから着ておけよ。脱いだら駄目だ。」 「何で?パーカーの上にパーカーを羽織るなんて暑いじゃない。」 かなでは少しむっとした表情で響也を見遣る。 全く、無自覚にも程があると、2度目の溜め息を吐く響也。 無自覚無意識無防備過ぎのかなで。きっとその事をかなでが自覚する日は来ないだろうから 自分がしっかりサポートをしてやらないと、と響也は改めて心に誓ったのだった。
Title by.露花のハナタバ