榊大地はオケ部の部室で、頬杖をついて悩んでいた。
普段の飄々とした彼からは考えられない程、真剣な表情で、だ。
そんな彼に、何人かの部員が声を掛けて行くが、大地はお茶を濁すのみ。
大地がちらりとある方向へ視線を動かせば、そこには彼の悩みの『種』が居た。
1ヶ月前、星奏学院へ転入して来た小日向かなでが、同じく転入生の如月響也と談笑している。
出会った当初は『可愛い後輩』としてかなでに接していた大地だったが、かなでと
アンサンブルを組み、かなでと共に過ごす時間の中で、大地の中で変化が起こった。
いつの間にか、彼女の事を可愛い後輩ではなく、一人の女性として好きになっていたらしい。
自覚してしまったら、気持ちを閉じ込めておく事が出来ない大地は、何度かかなでにモーションを
かけているのだか、彼女は一向に気付いてくれない。
今だって、響也に対して隙だらけのかなで。
きっと響也が自分に恋愛感情を抱いているとは、露程も思っていないだろう。
響也曰く「かなでのジィさんが俺を巻き添えにしたから仕方なく」星奏へ転入したそうだが、
それだけの理由で彼がわざわざ横浜まで出て来るとは思えない。
知り合ってまだ少ししか経っていないが、響也の気持ちが手に取るように判る大地。
自分も響也の立場ならば、同じようにかなでと転入しているだろう。
それ程までにかなでと言う少女は、目が離せない存在なのだから。
尤も、当のかなでは響也のそんな気持ちを知ってはいないだろう。
きっと、転入の事も響也の額面通りに受け取っている。
だから、何の警戒心もなく無防備な姿を響也に見せたまま。
彼女達のやり取りを見ていた大地の胸に、もやもやした気持ちが広がって行く。
これが嫉妬と云う感情なのだろうと大地は思った。
今まで何かに執着して生きた事のなかった大地に芽生えた感情。
自分にもこんな感情があったのかと思う大地だが、だからと言って、この状況をずっと続ける
気は更々ない。
(さてと…どうすればこの状況を打破出来るかな…)
再び思案する大地の脳裏に、とある考えが浮かんだ。
若干古典的ではあるが、これしかない…。
大地は心の中でごちると、早速今日からその作戦を実行する事にした。
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