お手をどうぞ、お姫様

「やっぱり似合ってる。凄く可愛いよ、ひなちゃん。」

『俺の目に狂いはなかったな』と満足げな表情で頷く大地。
「だ、大地先輩!」
「どうしたの?そんなに慌てた声で。」
くすくすと楽しげに笑む大地に、かなではむっとした表情を浮かべた。
「先輩の顔が近すぎるんです!」
かなでは頬を紅く染めながら、大地を見上げる。
かなでが身長差のある大地と視線を合わせる時は、どうしても上目遣いになってしまう。
上目遣いで睨み付けられても、『可愛い』と思うだけで、大地は更に笑みを深くした。
「ひなちゃんは本当に可愛いね。」
大地はそう呟くと、目の前に居る可愛い恋人を抱き締める。
「大地先輩!人が沢山居るのに。それと、服にお化粧が付いちゃいます!」
ホールに居る生徒の何人かが、2人をちらりと見遣るのが見え、かなでは慌てる。
大地が今着ているのは、いつもの制服ではなく高そうな黒のフロックコート。
かなではかなでで、今日の為に大地が見立てくれた白地に黒い薔薇の刺繍が入っている
ビスチェタイプの
ドレスを着用し、薄くではあるがニアによって化粧を施されていて。
このままでは大地の着ている服を汚してしまうと、かなでは慌てて大地の胸を押し返す。
「ひなちゃんは中々大胆な事を言うね。」
「え?」
大地は何故、自分の事を『大胆』だと言うのだろう?
かなでの脳内は疑問点で一杯になる。
「だって、化粧をしていなければ、ひなちゃんの事をずっと抱き締めていても問題ない、って事だろう?」
くすくすと笑いながら、かなでの耳元でそう囁く大地。
っ!」
『そんな事を言っていない』と反論したいかなでだが、恥ずかしさに声を出す事が出来ない。
「ひなちゃんの事を、このまま浚いたくなった。」
それは困る、と大地の顔を見上げるかなで。
これから開催される後夜祭のダンスに参加する為、自分は履き慣れないパンプスまで履い
て頑張ったと言うのに。
大地から『後夜祭のダンスパーティーで俺と踊ってくれないか』と言われて、とても嬉しかった。
一曲でも良い、大地と躍るまではここに居たい。
そんな気持ちが顔に出てしまったかなでは困惑の
表情を浮かべていた。
「折角こんな可愛いひなちゃんと踊れるんだから、浚うのは後夜祭が終わってからにするよ。」
『だから、覚悟しておいて』とウインクする大地に、かなでの顔は再び紅くなる。
「知りません!」
自分ばかり大地の言動に翻弄されている。
かなではそれが悔しくて、ふいとそっぽを向いてしまった。
「ごめん。ひなちゃん、機嫌を治して?」
大地はそう言うと、かなでに右手を差し出して、柔らかな笑みを浮かべた。





「お手をどうぞ、俺だけのお姫様。」