「そっちばっかりずるい・・・!頭なでさせて」

ふわり、と頭の上に置かれた大きな手。

かなでは自分の頭を撫でてくれる大地の大きな手が大好きだ。
自分の頭を撫でている時の大地は、とても穏やかな表情だ。
大地曰く『ひなちゃんの事が可愛くて堪らないから愛情表現の証だよ』と、事あるごとに
かなでの頭を撫でる。
大地から優しく頭を撫でて貰うのは大好きだが、大地先輩だけ狡い、とかなでは思う。
自分も大地の髪に触れてみたい、頭を撫でてみたい、と思うのだが、長身の大地の頭を
撫でる事はかなでにとってかなり難しい。
どうしたら、大地先輩の頭を撫でる事が出来るんだろう。
「ひなちゃん、どうかしたのかい?ここに皺が寄っているよ。」
かなでの眉間に寄った皺を指で撫でて、大地は彼女の顔を覗き込んだ。

「大地先輩ばっかりずるいです。」

「狡いって何がかな?」
「私にも大地先輩の頭を撫でさせて下さい。」
かなでの言葉に、大地は目を見開く。いきなりどうしたと言うのだろう。
「いつも大地先輩ばっかりで勿論、大地先輩から頭を撫でて貰うのは大好きです。
でも、私も大地先輩の頭を撫でて大地先輩に『大好き』って気持ちを伝えたいから。
「それで、俺の頭をひなちゃんは撫でたいんだ?
「はい。駄目、ですか?」
かなでにこんな可愛らしい事を言われて、駄目だと言える訳がない。
否、寧ろ嬉しくて仕方がないと、大地の頬が緩む。
大地はかなでに向かって極上の笑みを浮かべると、腰を屈めた。

「ひなちゃん、どうぞ。」

自分の目線に合わせて屈んだ大地の頭にそっと手を置くかなで。
「わ!」
癖のあるシナモンブラウンの髪は柔らかく、ずっと撫でていたくなる程だ。
「ひなちゃん、『わ!』って何かな?」
「大地先輩の髪、柔らかいなって。こうしてずっと撫でていたいです。」
大地は今、屈んでしまっているから見る事は出来ないが、かなでの弾んだ口調から
彼女が幸せそうな表情で自分の頭を撫でているのが判る。
「大地先輩。」
「何だい?ひなちゃん。」
「大好きです。」
慈しむように大地の頭を撫でながら呟くかなで。
「俺もだよ。俺もひなちゃんの事が大好きだ。」
心地よい暖かさに、大地はゆっくりと瞳を閉じる。


たまにはこうやって頭を撫でて貰うのも悪くないな、と思いつつ。