ガキの頃、かなでの小さな手を握り締めた時、『こいつを一生守って行きたい』と思った事があった。
その気持ちは、今も変わらない・・・・。
「紹興酒でしょ、中国茶セットでしょ、飲茶セットにお菓子…。後は何が言いと思う?」
かなでは自分の隣で土産を見ている響也に話し掛けた。
現在地・横浜中華街のとあるお店。
「実家に送るお土産を買いに行こうよ」とかなでに誘われ、響也は彼女と2人で中華街へと繰り出した。
かなでは律も誘うつもりだったようだが、律は学校に用事があるらしく、かなでの誘いを断っていた。
響也はその瞬間、小さくガッツポーズを取っていた。
誰にも邪魔をされる事なく、かなでと出掛けられるのだ。
好きな子と2人だけで出掛ける、これ程嬉しい事はない。
折角中華街へ来たのだからと、ここで昼食を摂り、土産を見る。
これってまるでデートじゃないかと、思わず頬が緩んでしまう響也。
「響也、どうかしたの?」
かなでの声が聞こえて、響也は我に返る。
買い物カゴ一杯に土産を入れ、それを両手で持ったかなでが、心配そうな表情で響也を見ていた。
「何でもねぇよ…。お前、まだ土産を買うつもりか?」
新たな土産に手を出しかかっていたかなでを見て、響也は呆れた顔をする。
「これだけで足りるかな?」
自分の買い物カゴに入った土産をちらりと見ながら呟くかなで。
「それだけあれば十分だと思うぜ。」
響也の言葉を聞いたかなでは、伸ばしていた手を引っ込めた。
「じゃあ、これだけ買うね。響也はそんなに少なくて良いの?」
かなでがそう聞き返すのも無理はない。
響也の手にしているのは飲茶のセットのみ。
「うちはこれで良いんだよ。俺と律がこっちへ出てきているし。」
『だからこれだけで良いんだよ』と響也は言う。
「かなで、レジに行くぞ。」
響也はかなでに声を掛けると、会計を済ませるべくレジのある場所へと歩いて行く。
「響也、待ってよ!」
先に行ってしまった響也に、慌てて着いて行くかなで。
「お土産は送ったし、これからどうしようか?」
「まだ帰るには早いし、この辺りをぶらぶらするか。」
「うん!」
コンクールの事や学園の事等を色々話していると、かなでの視線がある場所に
注がれているのを響也は気付いた。
その視線の先にあるのは、女性向けのアクセサリーを扱っているお店。
きっとその中に入りたくて仕方ないのだろうが、響也が居る為、どうしようかと思っているのだろう。
かなでとは長年の付き合いだから、響也は彼女の考えている事がよく判る。
自分の柄じゃないが、かなでの嬉しそうな顔を見られるなら…。
響也はかなでの頭に軽く手を置く。
「響也?」
「ほら、行くぞ。あの店に入るんだろう?」
響也が指差した方向を見れば、自分が入りたいと思っていた場所だった。
「でも、良いの?」
響也がああいった場所を苦手としているのは、かなでも周知している。
「折角だし、付き合ってやるよ。ほら、早く入らないと俺の気が変わるかもしれないぞ。」
響也がそう告げると、かなでは慌てて店内へと入って行った。