かなでのそんな姿を見た響也は、くすりと笑んでかなでの後を追いかけて行く。
「うわぁ…!凄くキラキラしてる…!」
店内へ入ったかなでは大きな瞳をきらきらと輝かせている。
響也にとっては、店内に並ぶアクセサリーよりもかなでの瞳の方が何倍も輝いて見える。
かなでには、とてもじゃないがそんな事を言えないけれど。
「響也、あっちを見ても良い?」
そこは指輪のコーナーになっているらしく、色も型も様々な物がずらりと並ぶ。
「その為にここへ入ったんだろ?ゆっくり見ろよ。」
「ありがとう。」
かなではいそいそとショーケースの前へと歩んで行く。
「わ…!可愛い指輪が一杯ある!」
かなでの視線の先には、ピンキーリングが並べられていた。
響也がかなでの隣からショーケースを覗くと、そこにはかなでの好きそうなデザインの
指輪が幾つか並んでいる。
かなでの視線がある指輪を前で止まったのを見た響也はついとその場所を見遣った。
かなでがじっと見つめていたのは、ピンクゴールドのピンキーリングで、中央にはハートのモチーフと
ハートの端にローズクォーツが付いたデザインの物。
響也が指輪の値段を見れば、自分にも購入出来る範囲内の価格だ。
「この指輪、見せて貰えますか?」
響也はピンキーリングを指差し、ショーケースの向こうに居る店員に声を掛ける。
店員はにこやかに微笑むと、ショーケースからピンキーリングを取り出し、かなでに向かって
ピンキーリングを差し出した。
「え…っと…。」
いきなりの事に戸惑うかなでは、響也を見遣る。
「嵌めてみろよ。」
響也が柔らかな笑みを浮かべてかなでを促す。
かなでは言われるがまま、左手を店員へと差し出した。
自分の指にするりと嵌まって行くピンキーリング。
「ぴったりですね!」
店員がかなでに向かってにっこりと微笑み掛ける 。
「かなで、どうだ?」声を掛けられて自分の小指をじっとみる。
ピンキーリングはかなでの小指にぴったりで、まるでかなでの為に誂えたようで。
ハートの端に付いているローズクォーツがきらきらと光る。
「綺麗…」
ピンキーリングの可愛らしさに感嘆するかなで。
「じゃあ、決まりだな。すみません、この指輪を下さい。」
「ありがとうございます。」
響也と店員のやり取りを聞いていたかなでは、慌てる。
「響也…!」
「何だよ?」
「下さいって…!」
「かなではそれが気に入ったんだろう?なら、買ってやるよ。」
「でも…!」
「ストップ!俺が買ってやるって言ってるんだから、お前は気にする必要なし…!」
「判った…。ありがとう、響也。」
ほんわかとしたかなでの笑顔を見て、響也は頬を赤くしてそっぽを向いてしまう。
ぶっきらぼうだけれど、さりげなく優しい響也。
今日だって、何だかんだと言いつつ、自分の買い物に付き合ってくれたのだ。
かなではもう一度自分の指に視線を落とし、左手に嵌っているピンキーリングを愛しそうに撫でた。
「響也、本当にありがとう。」
かなでは左手を掲げ、小指に嵌っている指輪を眩しそうな目で見つめる。
店内で『このまま嵌めていかれますか?』と店員に問われ、かなでは『はい』と即答した。
折角、響也から貰った物なのだ、外して帰るのは何だか勿体ない気がした。
「そんな大したもんじゃないけどな。」
「そんな事ないよ!凄く嬉しい。でも、響也には迷惑掛けてばっかりだね。転校の時もだし、
今日だって・・・。」
「ば〜か!俺は迷惑だなんて思っていないって言ってるだろうが。」
響也はわざとかなでの髪を乱暴に掻き回す。
「痛いよ!」
「お前が変な事ばっかり言うからだろ?」
むっとした表情で自分を見上げて来るかなでに、響也は悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
自分がかなでと一緒に横浜まで来たのも、彼女の側に居る口実なのだから。
口で言う程面倒だとは思っていないが、自分がそれを素直に伝えられないからいけないのだろう。
いつか、かなでに本当の事を言えたら・・・・、そしてその時には今あげたような安物の指輪じゃなくて、
もっとちゃんとした指輪をかなでに送って、彼女のもっと喜ぶ顔が見られたらと響也は思うのだった。